排卵日にみられる不正出血や吐き気
生理中でもないのに、腹痛やむくみ、冷えなどの体調不良を感じる女性は少なくありません。特に、これまでなかった不調を感じると、何か病気ではないかと不安に思うでしょう。しかし、このような体調不良は、実は生理中だけではなく排卵日にもおこりやすいのを知っていますか。
女性のカラダは、生理後から女性ホルモンのひとつである卵胞ホルモンの分泌量が増えて低温期に入ります。その後排卵期に入ると、黄体ホルモンの分泌量が増えて子宮内膜の厚みが増し、体温も上昇して高温期へと移行していきます。このときにおこる急激なホルモンバランスの変化は、女性のカラダに大きな負担をかけるため、体調不良がおこりやすくなるのです。
排卵日特有の症状には、排卵痛と中間期出血(排卵期出血)があります。排卵痛は、卵子が排出するときに破れた卵胞から卵胞液と血液が流れ出し、腹膜を刺激することで生じるものです。また、卵巣が軽度の炎症を起こした状態になっているため、お腹が張ったような痛みや子宮周辺に痛みを感じやすくなります。排卵日の前後2~3日にみられるのが特徴で、出血量が少なく出血期間も短い点で不正出血とは異なります。
黄体ホルモンの分泌量が増えることで生じる代表的な症状には、むくみ、冷え、眠気、吐き気、だるさ、肌あれ、便秘などがあげられます。黄体ホルモンの影響により、妊娠に備えるため、カラダに水分をため込みやすくなったり、眠気が出やすくなったりします。また、人によっては胸の張りや痛みを感じることもあります。
このほか、おりものの量が増えたり、イライラしやすくなったりするのも排卵期にはよくみられる症状。おりもの量は排卵日の2~3日前に最も多くなり、精神的な不安定さは生理開始から2週間前後におこりやすくなります。自分の体調不良が排卵日によるものなのか、病気によるものなのか不安に感じたら、まずは自分の生理周期を確認してみるようにしましょう。
子宮頚管炎が原因の不正出血と吐き気
排卵日には体調不良がおこりやすくなりますが、何らかの病気による場合もあるため注意が必要です。たとえば、不正出血や吐き気を引き起こす病気として、子宮頚管炎があげられます。
子宮頚管炎は、クラミジアや大腸菌、ブドウ球菌などが子宮頚管に感染して炎症をおこしている状態です。初期症状として、ニオイの強い黄色や黄緑色の膿のようなおりものが出て、炎症が強くなるとともに下腹部の痛みや腹痛、微熱などの症状があらわれます。この状態を放置すると、炎症が子宮や骨盤にまで広がり、吐き気や嘔吐、不正出血、高熱などをともなう子宮内膜炎や骨盤腹膜炎にまで進行することもあります。
子宮内膜の病気からくる不正出血と吐き気
不正出血や吐き気がおきやすい疾患としては、子宮内膜炎や子宮内膜症などの子宮内膜の病気が代表的です。
子宮内膜炎
子宮内膜炎は、感染症による炎症が原因で引きおこされます。初期の段階では、おりものの量の増加や下腹部の鈍痛が代表的な症状ですが、炎症の広がりとともに吐き気や下痢、排便痛などの症状があらわれます。子宮内膜炎は、出産や流産、中絶後などの子宮頚管が広がっている状態のときにかかりやすくなるといわれているため、注意が必要です。
子宮内膜症
子宮内膜症は、本来子宮内にしか存在しない子宮内膜に似た細胞が、卵巣、卵管や直腸表面などのさまざまな臓器で発生する疾患です。不正出血、吐き気や嘔吐に加え、激しい生理痛や下腹部痛が症状としてあらわれます。また、腰痛や性交痛、肛門の奥や排便時の痛みなどがおこることもあります。子宮内膜症は10~20代の若い世代にも多くみられる疾患で、不妊症の原因にもなりうるため、心当たりのある症状があらわれたら、早めに婦人科で相談して適切な治療を受けましょう。
不正出血と吐き気があるなら子宮外妊娠の可能性も
不正出血に加えて、つわりのような吐き気がある場合には、妊娠している可能性がありますので、市販の妊娠検査薬で検査してみることをおすすめします。正常妊娠の場合もありますが、切迫流産や子宮外妊娠のこともありえます。
子宮外妊娠は妊娠初期の異常妊娠のことで、子宮以外で妊娠している状態です。その多くは卵管妊娠で、自覚症状はほぼ妊娠中の症状と変わりありません。そのため、子宮外妊娠は自分で気づきにくく、人によっては生理が遅れているだけと勘違いしやすいので注意が必要です。
子宮外妊娠の状態を放置してしまうと、流産や卵管破裂による不正出血と下腹部痛を引きおこします。特に危険なのは卵管が破裂した場合で、かなりの出血を生じます。その出血によりそのまま死に至る可能性もあるため、できるだけ早い段階で適切な処置を受けることがとても大切です。少量の不正出血であれば放置してしまいがちですが、不正出血とあわせて吐き気などの症状があれば、できるだけ早めに婦人科で相談しましょう。
また、普段から基礎体温表をつけておけば、排卵日による不正出血かどうか判断しやすくなります。基礎体温表の記録は、妊娠だけではなく生理に関わるカラダの異常の早期発見にもつながりますので、基礎体温の記録を習慣づけるようにしましょう。
吐き気をともなう不正出血は早めの診断が大切
不正出血は、ストレスや不規則な生活、極端なダイエットなどによるホルモンバランスの乱れが原因で生じることがあります。これらが原因の場合、生活習慣を見直してホルモンバランスを整えれば、不正出血は改善していきます。
排卵日の前後におこる不正出血は中間期出血(排卵期出血)と呼ばれるもので、通常は2~5日以内で落ち着きますので、特に心配は必要いりません。
しかし、不正出血に吐き気などの別の症状があわせてみられる場合は、子宮頚管炎や子宮内膜の疾患、子宮外妊娠などにより引きおこされている可能性もあります。
また、おりものの量が増えて茶色がかった色合いになり、生理期間が長引く、生理時の出血量が増えているような場合は、子宮頚がんや子宮体がんの可能性もあります。これらの異常は、できるだけ早期の発見と治療が大切です。子宮頚がんや子宮体がんは早期に発見できさえすれば、治癒できる可能性が高まります。排卵日でもないのに出血がある、出血量が多い、2ヵ月以上生理がなく腹痛や吐き気をともなった不正出血が続いているのであれば、できるだけ早めに婦人科で診察を受けましょう。
普段から基礎体温表をつけておくと、自分のカラダの状態を把握しやすくなりますし、医師に相談する際の手助けにもなります。基礎体温を毎日計測して記録するのは手間に感じるかもしれませんが、自分のカラダの異常を見逃さず、健康に過ごすための大切なヒントになるものです。また、診察時に医師が適切な判断を下しやすくなるメリットもあります。スマホのアプリで基礎体温を記録し、生理周期や体調管理をするのも便利でおすすめです。
【記事監修医】
西山紘子先生
社会福祉法人 恩賜財団済生会支部東京都済生会
東京都済生会中央病院/産婦人科医