治療方法や治療内容は? 不妊治療のキホン
不妊治療の3種類の方法について(タイミング法、人工授精、体外受精)
まずは病院でおこなう不妊治療のおおまかな流れを紹介します。どの病院でも基本は次の3種の方法でおこなわれます。
- タイミング法
- 人工授精
- 体外受精
ここからはそれぞれの内容についてポイントを解説します。
タイミング法
タイミング法とは、排卵日前後の妊娠しやすいタイミングに合わせて、避妊をせずに性交渉のタイミングを取ることで妊娠を目指す方法です。妊娠を希望するほとんどのカップルは、生理周期や基礎体温、排卵検査薬などを活用して、自分で排卵日を予測しておこなうタイミング法から始めていくのが一般的。
ただし、なかなか妊娠しない場合は排卵日の予測がズレている可能性も。病院では超音波検査や血液検査によって、より正確に排卵日を予測できます。悩んだら、まず一度相談してみてください。
金額の目安
1〜3万円程度(保険適用後)
人工授精
排卵日付近に性交をするのではなく、人工的に精液を子宮内に送り込むことで妊娠を目指すのが「人工授精」です。
自宅や病院で採取した精液を細い管(カテーテル)に子宮内に挿入し、卵子に精子がたどり着けるようサポートします。「人工授精」で痛みを感じることはほとんどなく、短時間で終わります。
金額の目安
1回あたり5,460円(保険適用後)
1周期あたり2万〜3万円程度(保険適用後)
精子にとって、タイミング法はフルマラソン、人工授精はハーフマラソン
タイミング法が精子にとってのフルマラソンだとすれば、「人工授精」はハーフマラソンだと考えるとわかりやすいかもしれません。卵子にたどりつくまでの長い距離を人工的にショートカットしてあげることで、あまり元気がない精子であっても受精の確率を上げられます。さまざまな事情でタイミングを取ることが難しい場合や性交渉がうまくいかない場合にも適しています。
体外受精
「体外受精」はその名のとおり、卵子を外にいったん取り出し(採卵)、採取した精子をふりかけて受精を促し、育った受精卵を子宮に戻す方法です。体外受精の一種として、採取した精子を1つ選び、顕微鏡下で卵子に直接する「顕微授精」という方法もあります。
金額の目安
採卵1回10万〜13万円(保険適用後)
採卵の痛みは個人差が大きい 痛みに弱い人は対策を練っておこう
体外に卵子を取り出す「採卵」。かかる時間は卵子1個あたりでわずか数分ですが、人よっては痛みを感じることも。特に子宮筋腫がある方や子宮内膜症の方ほど痛みを強く感じる傾向にあるようです。
痛みを感じやすい方は、採卵の前に医師に相談しましょう。緊張からカラダがこわばると、呼吸が浅くなり、痛みにも敏感になりがちです。診察台のカーテンは開けてもらうほうが安心する、お気に入りのハンカチを握ると不安が和らぐなど、ストレスを少しでも減らせる方法を探してみるのもいいですね。一方で、「まったく痛くなかった」と治療後すぐに歩いて帰れる人もいます。
不妊治療は女性に負荷がかかりがち。男性は積極的にフォローして
男性はどの治療法でも「精子を採取する」という関わり方がほとんどですが、女性は治療内容が変わるほどに心身の負担が大きくなります。病院に行く回数も増えるため、プライベートや仕事に影響が出ることも。
男性としてはなかなか実感が持ちづらいかもしれませんが、「協力するよ」といった他人事ではなく、不妊治療を「ふたりのこと」として向き合っていきましょう。
不妊治療を始める前に、検査で不妊の原因を探ろう
妊娠しづらい原因がどこにあるかによって、治療のスタートラインが変わってきます。不妊治療を始める前に、男女で検査を受けて妊娠しづらい原因を探るのもオススメです。
不妊検査はすべて保険適用、2人で受けてスタートラインに
日本受精着床学会が行った不妊治療患者によるアンケート調査では、不妊の原因は、女性の卵巣因子が21%、卵管因子が20%、子宮因子が18%、男性因子が33%という結果になっており、男性と女性、どちらにも原因があることがわかります。
男性も検査を後回しにせず、ふたりで一緒に検査を受けるのがベストです。不妊の原因を探る検査は男女ともにすべて保険診療の対象となります。
病院によって差はありますが、検査の内容は以下のとおりです。
女性が受ける検査
- 超音波検査
子宮や卵巣の状態、排卵有無をチェック - 血液検査
性ホルモンの分泌や、感染症抗体のチェック
卵子の在庫数の目安となるAMHホルモンの値をチェックする医院も
男性が受ける検査
- 精液検査
精子の運動量、数などをチェック - 血液検査
感染症抗体のチェック
検査結果から受ける治療の一例
不妊の原因はひとによりさまざま。原因に対して最適な方法でアプローチしていきます。
例えば、女性の排卵がうまくおきていないのであれば、卵胞の発育を促すホルモン剤を内服して排卵を促す「排卵誘発法」をおこないながら人工授精から始めていきます。
「排卵を誘発する」と聞くと不安を感じる人もいるかもしれませんが、女性の性ホルモンを外からおぎなうもので、服用手段も飲み薬や点鼻スプレーのようにマイルドな方法が今の主流です。
男性不妊の原因も、元気な精子の数が少ない、精液中に精子が見当たらない、性交時に膣内での射精が難しい、勃起不全など多様です。
元気な精子が少ないのであれば、採取した精子の中から培養士が1つを選抜し、培養して卵子に直接する「顕微授精」からスタートする場合もあります。
卵巣年齢チェックや精子チェックができるセルフ検査キットも
最近では女性の卵巣年齢をチェックできる検査キットや、精子の様子をチェックできる検査キットなど、自宅でセルフチェックできるアイテムも登場しています。
病院で検査を受ける前に心の準備をしたい方が、最初のステップとして使用することもあるそうです。
今はまだ妊活の予定がない方も、自分のカラダをあらかじめ知っておくために活用してみてもいいかもしれません。
卵巣の年齢=実年齢ではない!?
実年齢が30才であっても卵巣年齢は40才相当ということもあります。そのため、実年齢にかかわらず卵巣の年齢をチェックしておくことはとても重要です。
次の治療法に進む目安は「6周期」 年齢によって期間を調整する
特に不妊の原因が見当たらない場合は、タイミング法から「人工授精」、「体外受精」へと治療を移行していくのが基本。しかし、どの治療法を何回までおこなうべきかの判断は悩むところでしょう。方針は病院によって多少異なりますが、6~7周期トライして妊娠しなかったら次の治療に進むのが一般的とされています。
女性が35才以上なら各治療のスパンは短く、スタートは前倒して
女性の年齢が35才以上であるならば、6周期まで待つ必要はありません。女性は30代後半になると、妊娠率が下がり、流産リスクが上昇するためです。女性が35才以上であれば3周期で次の治療法に移行したり、「体外受精」からスタートしたりする場合もあります。
男性の精子も加齢で老化していく
不妊治療では女性の年齢ばかりに目が行きがちですが、加齢によって妊娠の可能性が下がるのは男性も同じです。精子の質や運動率は、年齢を重ねるほどに低下していくことがわかっています。喫煙や過度な飲酒など、生活習慣の影響が精子の質の低下を招くという研究結果もあります。
男女どちらであっても加齢によって妊娠の可能性は下がることは、覚えておきたいですね。
どんな治療を受けるのか、決定権はふたりにある
治療の移行は義務ではありません。自分たちが望む妊娠や出産の形はどのようなものか、希望を叶えるためにその治療は本当に必要なことなのか。ふたりでじっくり話し合い、お互いが納得できる形を探していきましょう。
不妊治療は「体外受精」、「人工授精」と治療法を移行するごとに、身体的・経済的な負担が増していきます。2022年からは不妊治療の保険適用範囲が広がりましたが、それでも「採卵」〜「体外受精」を1度するだけでトータル十数万円の費用がかかります。
また、「妊娠」という結果よりも、「自然に授かること」を重視する方もいます。そうした価値観を持つ方のなかには、タイミング法で授からなければ諦める判断をすることも。
自分たちが望むことはなんでしょうか。体調やお財布と相談しながら、「どんな治療を受けるのか」をふたりで検討しましょう。
いつかの妊娠のために、卵子を保存しておく「卵子凍結」を知っておこう
卵子を保存する「卵子凍結」
妊娠・出産を考えたときに、女性にとって「35才」は1つの判断基準になります。しかし、出会いや結婚のタイミングは、自分の希望だけでは決められないもの。「いずれは子どもがほしい」「いつかはほしくなるかもしれない」との思いがあれば、「卵子凍結」という選択肢があることも頭に入れておくといいかもしれません。
年齢を重ねるごとに、卵巣の機能は低下していき、卵子の質も下がっていきます。卵子凍結は、健康な女性が将来の妊娠・出産に向けて自身の卵子を凍結保存しておく方法です。
近年は社員の福利厚生として、卵子凍結にかかる費用の一部を負担する企業も。2023年1月には、東京都が費用を助成する方針を打ち出しました。
「卵子凍結」のデメリットとリスク
一方で、「卵子凍結」には次のようなデメリットやリスクもあります。
- 排卵誘発から凍結保存までには高額な費用が生じる
- 融解後に100%の受精・着床が保証されているわけではない
- 高齢出産によるリスクがある
元気な卵子をできるだけフレッシュな状態でキープしたからといって、必ず妊娠できるわけではありません。また、解凍後に受精できても、母体が高齢であれば出産までのリスクは避けられません。
「受精卵の凍結(凍結胚)」を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、これは「体外受精」によって複数できた受精卵をいったん凍結保存しておくもので、卵子を単体で凍結保存する「卵子凍結」とは異なります。
不妊治療について、今から正しく知っておこう
妊娠・出産にはタイムリミットがあります。不妊のリスクは誰にでもありえること。不妊治療の知識を身につけておくことは、「もしも自分たちに不妊治療が必要だったとき」の備えになります。ぜひ今から、積極的に情報に触れていってくださいね。
【記事監修】
株式会社ファミワン
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