男性不妊症の原因や治療法ってどんなもの?
男性不妊の原因って?
男性不妊の原因は、精子の量や質などに問題があるケースが約80%。このほかに、性交渉での射精が難しい性機能障害や、加齢の影響などが挙げられます。
原因1:造精機能障害…精子の状態に問題がある
一般的に、1回の射精で射出された精液の中には3億個ほどの精子が入っていると言われています。卵子と出会うまでにその数は100~1000個にまで減っていき、最終的にたった1つの精子が卵子と受精します。
しかし、もともと精子の数が少なかったり運動率が悪かったりすると、卵子に到達できる数がどうしても少なくなってしまいます。こういった状態を造精機能障害と呼び、男性不妊の約80%を占めると言われています。
造精機能障害がおこる原因の1つに、「精索静脈瘤[せいさくじょうみゃくりゅう]」があります。これは、精巣から心臓に血液を戻す静脈が拡張してこぶができる病気。このこぶにより精子をつくる機能が低下し、精子の状態も悪くなります。場合によっては手術で取ることもあります。
原因2:性機能障害…射精や勃起ができない
男性不妊の原因の約10%は、性交時に射精ができない性機能障害だと言われています。なかには不妊治療を開始するまでは大丈夫だったのに、排卵日に性交するプレッシャーがかかり、心因性の勃起不全(ED)に陥ってしまうことも。
そのほか、射精した精液が膀胱内に逆行してしまう逆行性射精や、精液が出ない無精液症も性機能障害に当てはまります。
原因3:精路通過障害…精液の経路が塞がっている
精子は、精巣でつくられ、精管、尿道を通り射精されますが、何らかの原因でその通り道が詰まってしまうのが精路通過障害です。精液中に精子が出てこない閉塞性無精子症といった症状が挙げられます。
原因4:加齢…年齢が上がると精子の量や運動率は下がる
男性の年齢も不妊と関連があります。加齢に伴い、精子の量や運動率が徐々に下がり受精率は低下します。さらに流産、早産などの確率も高まっていきます。
男性不妊の検査内容とは?
不妊治療では、ふたりのカラダの状態を検査してから、タイミング法や「人工授精」、「体外受精」などの治療方針を立てていきます。
男性が最初におこなうのは、精液検査と血液検査の2つ。精液検査では、精液量や精子濃度などの検査項目を調べ、血液検査では感染症をチェックします。
1:精液検査
精液検査は、WHOの示す検査項目に基づいておこなわれます。
精液検査の検査項目
- 精液量
- 精子濃度
- 総精子数
- 精子運動率
- 正常精子形態率
通院する病院によっては、これ以外の検査項目があるケースもあります。
検査の方法
検査のために精液を採る方法は、
- 自宅で採って、2時間以内に病院へ持ってくる
- 病院の採精室で採る
の2種類があります。
どちらの方法かは病院のシステムにもよりますが、リラックスできる環境や方法は人それぞれ。どちらか選べるのであれば、男性が安心できる方を選んでくださいね。一般的に、精液検査をおこなう前の2~3日間は禁欲期間になります。
精液検査では、プラスチックの容器に射精します。容器は尿検査に使うカップのような大きさで、射精した精液をすべて入れます。コンドームから移し替えたり、別の容器に射精してからすくい取ったりするのはNGなので、注意して。
禁欲期間や睡眠時間、疲れ、射精するときにリラックスできているかなどによって、精液の量や質は日によって異なります。検査結果が芳しくなかった場合は、再検査になることもあります。
精液検査で問題があっても赤ちゃんへの影響はないの?
精液検査で問題があった場合、赤ちゃんの健康に影響が出るのでは?と心配する方もいるでしょう。しかし、染色体異常がある精子、遺伝的に弱い精子は受精できずに淘汰されていきます。卵子は健康な精子とのみ受精するので、安心してくださいね。
2:血液検査
血液検査では、感染症や抗体の有無を調べます。病院によっては先に血液検査で感染症リスクをチェックしてから、精液検査をおこなうケースも。
- B型肝炎ウイルス
- C型肝炎ウイルス
- 梅毒
- HIV(エイズ/ヒト免疫不全ウイルス)
- 風疹
- クラミジア
などのリスクがないかを検査します。
感染症のリスクが見つかった場合は、不妊治療を始める前に治療や予防接種をおこないます。
不妊治療は男女ともに当事者
不妊の原因は男女両方にあり、男性にとっても女性にとっても決して他人事ではありません。「女性の検査結果が出てから受診する」と考える男性もいますが、ふたり同時に検査を受けるのがベストですよ。
初診はふたりで一緒に受けよう
不妊治療の初診では、必要な検査や今後の治療方針について医師から説明があるため、ふたりで受診することをオススメします。女性、男性それぞれがどんな検査が必要で、どのくらいスケジュールやカラダに負担がかかるのか。医師から直接聞くことで、お互いの納得度が高まり、治療に臨む心の準備もしやすくなります。
検査結果はまず男性本人が聞くのがベスト
通常の健康診断などでは、検査結果は患者本人にのみ伝えられます。しかし、不妊クリニックでおこなわれる不妊治療の検査結果は、ふたり共有の個人情報と捉えられることも。そのため、病院に行く機会が多くなりやすい女性が、男性の代わりに精液検査や血液検査の結果を聞くケースがあります。
しかし、検査結果が悪かった場合、「夫へどう伝えるか」を考えるなど女性側に精神的な負担がかかってしまったり、悪い結果を聞いたときに男性が女性から否定されたように感じてトラブルになったりすることも。
第三者から結果や意見を聞くと、状況を客観的に捉えられることも多いです。精液・血液検査結果を医師から聞くときは、なるべく男性本人が聞きに行けるように予定を調整してみましょう。
男性の不妊外来では、どんな治療をするの?
男性不妊に関する検査・診察をする男性不妊外来には、次のような場所に設置されています。
- 泌尿器科
- 不妊治療専門クリニック
- 婦人科の不妊外来が男性を診る曜日を設けている
自宅近くに男性不妊外来があるか調べておくといいでしょう。あらかじめ、ふたりで通院できる不妊クリニックを選択するのもいいですね。
男性不妊外来では、精液検査を始め、触診で陰嚢内の睾丸の大きさや硬さなど、さらに詳しくカラダの状態をチェックします。このほか、お尻から超音波検査の器具を入れ、前立腺や泌尿器系の疾患がないか診察することもあります。
人工授精・体外受精で妊娠を目指す
男性不妊がわかった場合は、「人工授精」や「体外受精」で妊娠を目指すケースが一般的です。
例えば、
- 性交時に射精ができない場合…マスターベーションで採取した精子を、カテーテルを使い子宮内に注入する「人工授精」
- 精子の数が少ない場合…精液中から培養士が選抜した精子を、女性から採取した卵子に注入する「体外受精(顕微授精)」
など、状態に応じて治療法を検討します。
不妊治療のプロセスがプレッシャーになり精子の質に影響が出ることも
不妊治療で精液検査を繰り返すと、検査結果が徐々に悪くなっていく傾向にあります。この原因はおもにストレスなどの心因的なもの。
例えば、
- 「カップに向かって射精するしかできることがないのではないか」と思い込んでしまう
- 不妊治療のプロセスの中で疎外感を覚える
- 30分しか利用できない予約制の採精室で時間に追われるプレッシャーを感じる
など。
精子の質はメンタルのコンディションによって左右されるもの。可能ならば自宅での採精を選択するなどの解決策を探り、ストレスを軽減する工夫を取り入れましょう。
シリンジ法や精子凍結をお守り代わりに
男性の精神的負担を軽減するために、
- シリンジ法
- 精子凍結
も活用できます。
シリンジ法とは、性交時に射精するのが難しい場合、マスターベーションで射精した精子を、シリンジ(針のない注射器)を使って女性の膣に直接入れる方法。自宅で使えるキットも販売されているため、タイミング法を行っているなら準備しておいてもいいですね。
精子凍結はその名のとおり、事前に精子を採り、冷凍しておく方法。「人工授精」や「体外受精」をおこなう当日に射精できなかった場合や精子の質がいまいちだった場合も、冷凍精子というバックアップがあれば心の余裕に繋がります。
心因性の勃起不全(ED)などの性機能障害では投薬治療も
性交時に射精ができない性機能障害では、心因性の勃起不全(ED)の治療として、
- バイアグラなどの治療薬の処方
- 血流をよくする漢方薬の処方
が挙げられます。
一部の勃起不全(ED)の治療薬は、2022年4月より不妊治療の目的に限り保険適応されるようになりました。
また、漢方薬は内服を開始してから3ヵ月ほど様子を見て結果を判断するため、治療に時間がかかります。
「精索静脈瘤」では手術をおこなうケースも
精巣から心臓に血液を送る静脈にこぶができる「精索静脈瘤」がある場合は、手術を検討するケースがあります。手術をおこなう場合は、術後3ヵ月のタイミングで改善しているかを確認し、問題がなければ不妊治療を再開します。
持病のために服薬している場合は医師に相談しよう
一般的に流通している薬のなかには、男性不妊に影響するものがあります。
- 血圧の薬
- 精神科系の薬
- AGA(男性型脱毛症)のための投薬治療や育毛剤など
上記の薬を服用している方は、診察時に医師に確認をしてみましょう。
精子に良い習慣・悪い習慣をチェックしよう
精子を元気にするためには、適切な体重・BMIの維持や射精回数が関係すると言われています。また、喫煙や長風呂・サウナは精子に悪影響を及ぼすことも。妊活をきっかけに、生活習慣を見直してみましょう。
適正な体型・BMI指数
肥満・痩せすぎの男性は精液検査の結果が良くないというデータがあります。(※1)
BMI指数は次の計算式で求められます。
BMI=体重kg÷(身長m)²
BMI値の判定は次のとおりです。
- 18.5未満:やせ
- 18.5以上25未満:標準
- 25以上:肥満
自身の体重・BMIを一度チェックし、標準範囲外の場合は食事や運動習慣を見直してみてください。
定期的な射精を心がけよう
妊活をきっかけに排卵日などに採精する習慣がつくと、つい禁欲期間を長引かせてしまいがちに。しかし、3日間ごとに射精をした方が精子の運動率が維持できると言われています。射精は定期的におこなうよう心がけて。
長風呂やサウナに注意。服装は風通しが良いものを
精子は熱に弱いため、妊活中は長風呂やサウナなど、睾丸を温める行為は避けたほうが良いでしょう。服装も熱のこもるピッタリとしたものよりも、風通しの良いものがオススメ。例えば、パンツはボクサーパンツより、ゆったりとしたトランクスを選んでみてくださいね。
座り仕事では1時間に1度立ち上げる習慣をつけて
血液が滞ると、精子に影響が出ることがあると言われています。座り仕事の場合、できれば1時間に1度は立ち上がる習慣をつけましょう。定期的に立ち上がることで、睾丸への風通しもよくなり、熱がこもりにくくなることも期待できます。
妊活中から禁煙を目指して
喫煙は、精子の数や精子数、運動率の低下などをもたらします。また、女性が妊娠した後にも、喫煙の副流煙が早産などのリスクを増やす原因に繋がります。不妊治療をきっかけに禁煙に挑戦してみては。
深酒はNG
過度な飲酒は精子の質を下げることがわかっています。深酒することで、採精や性交渉ができなくなる状況がすれ違いに繋がることも。もし心当たりがある場合、飲酒習慣も見直してみましょう。
女性も知っておきたい、男性不妊と男性の心理
男性不妊の検査や治療でよく耳にするのが、「男性が積極的に不妊治療へ参加してくれない」という女性の声です。ここでは、男性が不妊治療に積極的になれない理由や、そのような場合のコミュニケーション法を紹介します。
男性が不妊治療に積極的になれないワケ
男性には男性独自の不妊治療に対する心理的負担があることを理解しておきましょう。
「男らしさ」を否定された気分になることも
心の中に「精子は男らしさの象徴」という意識があると、精液検査で精子の問題が指摘された場合に、自分のアイデンティティを否定されたような気持ちになってしまうことも。
男らしさと精子には因果関係はありません。思い悩まず、冷静に治療に取り組めるといいですね。
女性と比べて、自分のカラダについて考えるきっかけが少ない
女性は、毎月の生理の中でひどい痛みや不正出血がおこったりすると、「なにか疾患があるのかも」と婦人科の受診を検討することがありますよね。それは、自分のカラダと向き合う機会にもなっています。
生理がある女性に比べて、男性は自分のカラダに向き合う機会が少ないもの。しかし、何も異変はないし、射精もできている状態だとしても、精子に問題がみつかるケースがあります。
心の準備ができていない状況でいきなり問題を指摘されたことがきっかけで、心因性の勃起不全(ED)になることも。病院で検査をするのに不安を感じる場合、まずは自宅で簡易的な精液検査ができるキットで試してみるのがオススメです。自宅で精子の状態を事前に確認できていれば、病院での本格的な精液検査も落ち着いて受けやすくなりますよ。
婦人科・不妊クリニックの雰囲気が苦手
不妊治療外来は、排卵日の検査などで女性の通院回数が多くなります。そうすると、待合室にいるのはほとんど女性で、男性は居心地が悪く感じてしまうことも。また、医師と話をする診察室の隣室に内診台が設置されているなど、男性にとって不慣れな環境が精神的な負担に繋がることがあります。
女性と男性でそれぞれに違う種類の心身的な負担があると理解し、お互いに感謝といたわりの気持ちを伝えあえるといいですね。
妊活中のコミュニケーションを考えてみよう
妊活中は男女ともに心理的な負担がかかりやすいもの。コミュニケーションを工夫して、お互いに支え合えるようにしましょう。
妊活以外でも性交渉をする
妊活を始めると妊娠目的の性交渉しかしなくなるケースがあります。しかし、妊活以外の性交渉も大切にしておくのがオススメです。性交渉自体のハードルを下げておくだけではなく、射精するタイミングを増やすことで、精子の運動率上昇にも繋がると言われています。
悪い習慣が辞められないときは、医師に相談を
なかには妊活を自分ごとにできず、悪い習慣を改善できない男性もいます。パートナーの喫煙や深酒に悩む場合は、医師から男性に伝えてもらいましょう。「不妊治療に必要なことだから」と専門的な視点から説明を受けた方が客観的に理解でき、やめるきっかけになるケースがあります。
検査結果が芳しくない場合、時間をおいてから話し合う
不妊の原因が男性にあるとわかった場合、女性は焦りの気持ちからすぐに話し合いの場を持ちたくなるかもしれません。
その気持ちもよくわかりますが、なかには「まずはひとりで落ち着いて考えたい」という人もいます。パートナーがそのようなタイプの場合、まずは相手を見守りましょう。そこから、どうすべきかを一緒に考えていっても決して遅くはありません。
そのとき、「ふたりの子どもを授かれるように、一緒にがんばろう」など、相手の性格や心の状態に合わせて、温かく寄り添う姿勢を見せるのもいいかもしれませんね。
不妊治療はふたりで一緒に取り組むもの
勃起や射精、精子の質には、男性の精神状態が大きく関わります。ストレスがかからないよう、お互いに思いやりを持てるといいですね。
不妊治療に正解はありません。ふたりの望む未来によって、選択は変わります。「自然妊娠がしたい」「自分たちの遺伝子を残したい」「育児がしたい」「家族が欲しい」。不妊治療を続ける中で、思いが徐々に変化することがあるかもしれません。定期的にお互いの気持ちを共有しあいながら、治療に取り組んでいきましょう。
※1 Association between BMI and semen quality: an observational study of 3966 sperm donors Jixuan M., et al, Human Reproduction, Volume 34, Issue 1, January 2019, P155-162.
【記事監修】
株式会社ファミワン 不妊症看護認定看護師 看護修士
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